コラム

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本当にいつ振りか分からないくらい久々のコラムの更新で書くテーマがこれか、と思われてしまうかもしれない。本来は松山英樹選手が達成したMasters優勝という快挙の時に書くべきだったのだが、あまりに感動して何をどう書こうかと考えているうちに時間が経ってタイミングを逸してしまった。何より、私は個人的にMastersの舞台であるAugusta Nationalでラウンドしたことがないので、臨場感溢れるコラムが書けない。ということで、今回はKiawah Island Ocean Courseで開催された全米プロゴルフ選手権で史上初の50代でのメジャー優勝を果たしたPhil Mickelsonについて書くことにした。

賢明な皆様はすでにご推察のところかと思うが、もう15年以上も前ではあるものの、私はKiawah Island Ocean Courseを何度もプレイしている。ラッキーにも近所に住んでいたというようなことではなく、当時の留学先から南に数百マイルを、長期の休みのたびに途中でスピード違反で捕まるほど車でぶっ飛ばして通い詰め、ある時は友人家族と一緒にコース近くの一軒家を借り切って数日滞在するほどまでのご執心振りだった。もしかすると今回初出場で急遽渡米しぶっつけ本番的にプレイした選手よりもコースのことを知っているかもしれない、と思っているくらいだ。私がそれまでに回ったことのあるコースの中で、間違いなく世界一難しく、そして世界一面白いコースだったし、帰国してかなりの時間が経過しその後もそれなりにいくつものコースを回った現在に至っても、残念ながらKiawah Island Ocean Courseを上回るコースには出会えていない。余談になるが、私が今使っているゴルフバッグは、このコースのクラブハウスで購入したコースのロゴ入りのものである。

文字通りKiawah Islandという大西洋に面した島にあり、メインとなるthe Ocean Course以外にも雰囲気が全く異なる5つのコースがあって長期滞在のゴルフ旅行に適しているから、という理由以外に、このコースの何が私をここまで魅了したのか。距離が長く、とにかく広大な海岸沿いのうねったフェアウェイに砂浜なのかバンカーなのか分からない無数のハザードが点在するだけでなく、いくつものボールを呑み込んだであろうラフなのかただの草むらなのか分からないモシャモシャや、普通にクロコダイルが日向ぼっこしている沼地がコースの難易度を著しく高めつつその景観を唯一無二のものとしている。そして基本的に砲台となっているグリーンは傾斜がキツいだけでなく、芝が海風の影響を受けて微妙に切れたり切れなかったりするため、非常に読みにくい。そしてコース全体を覆うように、やはり太平洋とは異なるどこか寂しげな荒涼とした鉛色をただえた荘厳な大西洋とその空が、プレイヤーを時には柔らかな太陽で優しく包み、時には残虐なまでの暴風雨で徹底的に痛めつける。こう書くととても魅力的なコースには思えないという方も多くいらっしゃるかもしれないが、大自然の悪戯という自分ではコントロールできない運不運に翻弄される予測可能性のなさ、どのような結果でも全て受け入れて次に進まなければならないメンタルの切り替えなど、人生のあり方にも通ずるこのコースに詰まったリンクスゴルフの本質に、たぶん私は魅惑されたのだと思う(但し、良いスコアを出すことだけがゴルフの最大の楽しみと考えている方には、このコースは全くお勧めしないのでご注意を)。

確か最初のラウンドの16番だったと思う。その日はインに入ってから天気が急に悪くなり、台風とまでは言わないものの、それまで経験したことがないようなかなりの強風と冷たい雨が降り続いていた。何打目のショットなのかも覚えていないが、残りはせいぜい50,60ヤードだったはずだ。ほうほうの体でようやくグリーンの近くまで辿り着いたが、そのようなコンディションでは当然の如くゴルフの内容もスコアも散々で、大抵のことではゴルフを途中で切り上げたりしない私もその時の同伴者も、ともにすでに気持ちが切れかけていた。とにかく早くウェッジでグリーンに乗せてこのホールを終えたいと思った時、キャディがグリーンに向かって右直角90度の海の方向を指差して、「あっちの砂浜の方向に110ヤードだ。これでフルショットを打て。」と言いながら、9番アイアンを渡してきた。「はぁ?何言っているの?あとせいぜい60ヤードあるかないかだし。方向も距離も違うし。何より、9番だったらもっと飛ぶし。」と訝しげにしていたら、「いいから、黙ってオレの言うとおりにしろ。」と強く言ってくる。半信半疑で大西洋の方向を向き、9番アイアンをフルショットしたら、あら不思議、スピンで高く舞い上がったショットは海からの強風に煽られ、直角に曲がって舞い戻り、花道からコロコロと転がってグリーンに乗りピンそばについたのである。ラウンド後に、そのキャディにチップをたっぷりとはずんだのは言うまでもない。

他にも各ホールごとに日本のコースにはない特徴といくつもの(個人的な)ドラマがあって書き出すとキリがないが、総距離7800ヤードを超えるそんなとんでもないモンスターコースで、50歳を超えたおじさんゴルファー世界代表(失礼!)のPhil Mickelsonが、並み居る飛距離自慢の強豪たちを退けて優勝したというのは、このパワーゴルフ全盛の現代においては驚異的なことである。報道によれば、Phil Mickelsonは相当なトレーニングを積んで肉体改造を施し、万全の調整でこの大会に臨んできたということのようである。これで一時期物議を醸していた彼が全米オープンの特別招待枠を受諾したことの賛否も吹き飛ぶであろうし、何より中年オヤジに週末の少年野球をちょっと手伝ったくらいで肩と腰が痛くてヒイヒイ言っているのは恥ずかしいという思いにさせてくれたことが大変ありがたい。

そしてまた、この大会は多くの観客が観戦する形で開催され、優勝セレモニーも関係者は特にマスクなどすることなく行われていた。米国のワクチン接種がかなり進んでおり経済が元に戻りつつあることの証でもあるが、喧々諤々議論するばかりでなかなか行動が伴わない日本でも、この大会を見習ってぜひこれを機にコロナ禍からの早期復活を目指して欲しいところである(東京と大阪でようやく高齢者の大規模接種が開始したことがニュースになるようでは悲しい限りだ)。

そんな感じでとにかくこのコースについて書き出すと筆が止まらないが、何とか強引に時事問題に繋げられたし、久々の更新でもあるので今回はこのあたりにして、その他のエピソードはまたの機会としたい。

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お盆で少し気持ちに余裕ができたので、久々に何か書いてみようと思い立ったが、今日書くとしたら、やはりこのテーマしかない。松山英樹選手が惜敗した4大メジャーの一つでもある全米プロゴルフ選手権について、である。

今年の舞台となったQuail Hollowは、私が留学していたロースクールから車で2時間ほどのところにあり、Wachovia Championship(現Wells Fargo Championship)という米ツアーの試合を観戦しに行ったことがある(念のためですが、春休み期間中です。)ゴルフコースでもあったので、今回のメジャーは当時のことを懐かしみながら特に思い入れを強くして観戦していた。

とにかく雄大で美しく、それでいながら距離が長くフェアウェイがうねっていてハザードが厳しいタフなコースという記憶である。私が観に行ったのは田中秀道選手が米ツアーに挑戦していた時期で、その試合でも地元の英雄であるDavis Love Ⅲら大柄な選手の中で孤軍奮闘していた。お世辞にも体が大きいとは言えない田中選手はやはり飛距離で劣り、常にセカンドオナーを打たされていた。そんな中、500ヤード近い最終9番ホール(インスタート)パー4で残り200ヤード以上のセカンドショット(もちろん同組の中で最初に、しかも他の選手がミドルアイアン以下のところを、ロングアイアンかユーティリティを打たされている)を見事に2メートル近くに乗せてその日初めてのバーディを取った田中選手に「ナイスバーディ!」と声援を送ったら、キャディがスタスタと近寄ってきて、「Thank you for walking with us today.」とサイン入りボールを手渡してくれたことは、今でも忘れることができない思い出である。が、それは同時に、体格で劣る日本人選手がこのフィールドで欧米人と互角に戦っていくには毎回目一杯のスーパーショットを要求されること、そしてそのことがどれだけ肉体的にも精神的にも負担となるであろうことなのかを、思い知らされた瞬間でもあった。

これまでも多くの日本人選手がゴルフの4大メジャーに挑戦しては、試合開始前は「●●選手、念願の日本人初メジャー制覇へ向けて万全の調整!『自分の力がどこまで通用するか試してきたい』」、予選ラウンド後は「●●選手、上位進出目指す!『何とか予選を通過できたので、あとは少しでも上を目指して攻めるだけ』」、最終日後は「●●選手、大健闘のファイナルラウンド!『多くの課題が見つかった。日本に帰ってまた頑張りたい』」などというテンプレートのようなメディア報道を毎回繰り返し見せられてきた。しかし、松山選手に関しては、そして本当に今回に関しては、これまでの繰り返しが当てはまらないのではないか、と多くの日本人が期待したに違いない。欧米人に見劣りしない鍛え抜かれた体軀から繰り出される正確無比なショットは、明らかにこれまでの日本人選手とは別格の世界水準のものであり、パッティングと少しだけの幸運があれば、日本人初のメジャー制覇も本当に夢ではないところまで来ていたように思われた。

しかし、その夢は今回も無残に打ち砕かれてしまった。木に当てながらボールが戻ってきたり、待っていたら止まっていたカップ縁のボールがコロリとカップインしたりと、優勝したJustin Thomasに運があったという意見もあるようだが、松山選手自身が11番と16番のパッティングで自らに幸運をたぐり寄せられず、そしてそのことがJustin Thomasに17番のスーパーショットを打つ余裕を与えてしまったのが敗因だと考えるのが妥当だろう。その意味では、単なる運ではなく技術不足の部分があったとも言えそうである。幸運の女神は技術のある選手にしか振り向かない。

私は松山選手ではないが、今回の結果は自分のことのように本当に悔しい。でも考え直してみれば、これまでの日本人選手であれば5位という結果なら大喜びでその活躍を賞賛したはずであった。それが、5位ではガックリ、いや優勝以外はどれでも同じ、と皆に思わせるレベルまで来ているのである。しかも敗因は、運だとか流れだといった抽象的なものではない大事なところでのパッティングだと明確に分かっているのだから、まだまだ希望はある。このフィールドの中でこのコースと闘うことがどれだけ大変なことなのかを素人なりに垣間見た私にとっては、それだけでも驚愕の事実である。Justin Thomasだって、常に比較の対象となる幼なじみのJordan Spiethが先にメジャーを3勝するなど、これまで辛酸を舐めてきたであろう。少なくとも体格や飛距離で劣ることなく、世界と対等に戦える数少ない日本人である松山選手が、今回の敗戦を糧に欠けているピースを見つけ、勝負どころのパッティングを決めまくりメジャーを制覇する時はそう遠くないはずだ。その期待を一身に受ける松山選手には過度のプレッシャーを掛けて本当に申し訳ないが、とにかく今の自分には、そう言い聞かせないと明日以降仕事に向かう気力が到底湧かないのである。

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