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久しぶりの更新となったが、やはりそのきっかけは思わず何か書きたくなるような興味深い案件のせいである。と言っても、芸能人の不倫疑惑やアイドルグループの解散騒ぎのことではない。料理レシピサイト運営最大手のクックパッドの経営権争いが、それである。

昨年の大塚家具のお家騒動の際にも少し書いたが、このような株主提案を引き金とするいわゆる経営権争い(今後プロキシー・ファイトに展開していくかはまだ不確定なところもあるため、ここではあえてこのような表現に留めておく)にそれなりに関与してきた者としては、この案件が年明けすぐに明らかになったこと、そして関係者の検討と協議が偶然にも私のオフィスが所在するビルの違う階でおそらく連日に亘って展開されているであろうことに、若干の興奮を禁じ得ない。少し残念なのは、株主側からも会社側からも私に対して本件に関する相談の依頼がなかったことだが(笑)、そのおかげでこのようなコラムが書けるということで強引に納得することにする。なお当然ながら、私が本件やそれに関わっている専門家らと一切の関係がないことは、念のために付言しておく(株主が提案する取締役候補者の中には、私の知人がたまたま数人その名を連ねているが、私自身は本件には全く関与していない)。

長くなるため事案の詳細についてはここでは立ち入らないが、公表されている事実や一部の報道によれば、経営権争いの主要な争点は、事業の多角化を進める現経営陣と本業に注力すべきという創業者の意見の相違のようであり、その対立は昨年末あたりから顕在化していたらしい。そしてクックパッドの過去の議決権行使比率は80パーセント台の半ばくらいということなので、今後この数字が多少動くことがあったとしても、株主総会における議決権の過半数を巡る争いに関しては、約44パーセントを保有している提案株主側に分があると言ってしまっても言い過ぎではなさそうだ。しかしながら、本件の公表後すぐからクックパッドの株価は下落を続ける一方であり、これを根拠に、提案株主以外の株主は現経営陣を支持しているという見方もできる(単に内輪揉めに嫌気が差しただけということもありそうだが)。また最新のプレスリリース(1月19日付)によれば、株主側と会社側の落としどころを巡っての協議は物別れに終わったようであるが、社外役員に著名な弁護士も擁するクックパッドが、このまま資本多数決の論理に容易に屈するとも思われない。果たして、創業者の熱い想いとそこから離れて優良大企業に独り立ちした会社の未来に、折り合うためのレシピはあるのか。

なお、昨年末にいきなり勃発し、いつのまにか和解で終了していたセーラー万年筆の社長解職騒動(代表取締役を解職された社長が、取締役として残ることで和解が成立)でも、その争点は、他の役員らから本業に注力するように再三要請されていたにもかかわらず、社長が講演活動などに時間を割き過ぎていたからなどと報道されていた。もちろん両社はその規模も歴史もそして業界も全く異なるが、こういった事案の本質はもしかしたら同じところにあるのかもしれない。

いずれにしても、今後の展開から目が離せない。通勤途中のエレベーターの中で、思わず聞き耳を立ててしまう日々が続きそうだ(笑)。